#「々」に「原」の注記]方々に誤字があり誤植がある樣だから見當つたら教へて頂戴
 人間の價値は何かやつて見ないとどの位あるか分らない。君どうぞ勉強してやつてくれ玉へ。
 然し世の中には駄目な事が分り切つて居ても眼が見えないのでうん/\やつてる奴がある。そんなものは教へてやつても説諭してやつても分りつこない。矢張自分が斃れる迄やつて念晴らしが出來ないと氣が濟まんものである。勝手に覺りがつく迄やらせるがいゝが、はたから見ると憫然なものだ。是は此間中からたつた一人で感じて居る事だが誰にも云はない。然し文藝上の事でも何でもない。
 君にやり玉へといふのは文學の事だ自分で何か作つて見ないとどの位作れるものか自身にもわからない。いくら作つてもそのつぎの自分はどんな風にあらはれるか决して分るものでないから君も千鳥のあとに萬鳥でも億鳥でも大にかき給はん事を希望する。
 僕も漾虚集丈でつきた譯でもないから是から又何ぞかく積りで居る。 以上
        五月二十六日
[#地から4字上げ]夏目金之助
     鈴木三重吉君
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 先日來卒業論文を漸く讀み了つた。中川のが一番えらい。あ
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