上の部なるべし。池の景色鮒の動靜悉く寫生なり陳腐ならず)
○虚子曰く若い男女が相會して互に思ふはありふれた趣向なり但二日間の出來事と云ふに重きを置いて、それを讀者にわからせる樣につとめた所がよし。(漱石曰く趣向は陳腐にもあらず又陳腐でなき事もなし要するに技倆如何にて極る。此篇の大缺點はどうしても作り物であるといふ疑を起す點にあり。然し所々に寫生的の分子多きために不自然を一寸忘れさせるが手際なり)
 虚子曰く狐の話面白し全篇あの調子で行けばえらいものなり(漱石曰く全篇大概はあの調子なり)
 要するに虚子は寫生文としては寫生足らず、小説としては結構足らずと主張す。漱石は普通の小説家に是程寫生趣味を解したるものなしと主張す。
 以上は虚子の評なり。君は固より僕に示す丈の積りだらうが僕以外の人の説も參考に聞く方が將來の作の上に利益があると思ふから一寸報知する。虚子と云ふ男は文章に熱心だからこんな事を云ふので僕が名作を得たと前觸が大き過ぎた爲め却つて缺點を擧げる樣になつたので、いゝ點は認めて居るのである。
 それで原稿は一度君の許諾を得た上でと思つたが虚子が持つて歸ると云つたからやりましたよ。尤
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