もない方がいゝ。繪本の御姫さまは前後ともない方が明瞭である。尤もあれば妙な趣味は生ずる。壁の畫がね[#「ね」に「原」の注記]け出すのも考へものだ 以上は僕の感じたわるい方だがそれを除いては悉くうまい。會話といひ所作といひ仕草といひ悉く結構である。一つ二つ取り出して云ふとほかゞまづい樣になるから云はない。總體が活動して居る。僕が島へ遊びに行つて何かかかうとしても到底こんなには書けまい。三重吉君萬歳だ。そこで千鳥を此次のホトヽギスへ出さうと思ふが多分御異存はないだらう。構ひますまいな。尤も緒言はぬく積りだ。
 どうか面白いものをもつと澤山かいて屁鉾文士を驚ろかして呉れ玉へ。僕多忙でこまる。昨日から講義をかきかけたら半ページ出來た。講義を書くより千鳥をよむ方が面白い。加計の縁談は破談とやら氣の毒な事だ藤さんでも貰つてやり玉へ。血統なんて構やしないよ。別嬪で※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]イオリンが上手ならわるい病氣なんか出やしない。大丈夫なものさ。先祖代々の血統を吟味したら日本中に確たる家柄は一軒もなくなる譯だ。序によろしく 以上
        四月十一日夜
[#地から9字上げ]金

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