使う英語に頼みもせぬ註解を加えたり、この字は分りますかなどという事がたくさんある。この間さる処へ呼ばれてそこの奥さんと談《はな》しをした。するとその人が大の耶蘇《ヤソ》信者だからたまらない。滔々《とうとう》と神徳を述べ立てた。まことに品の善い、しとやかな御婆さんだ。しかる処 evolution と云う字を御承知ですかと聞かれた。「世の中の事は乱雑で法則がないようですがよく御覧になると皆進化の道理に支配されております……進化……分りますか」。まるで赤ん坊に説教するようだ。向《むこう》は親切に言ってくれるんだから、へーへーと云っているより仕方がない。それはこの婆さんのようにベラベラしゃべる事はできない。挨拶《あいさつ》などもただ咽喉《のど》の処へせり上って来た字を使ってほっと一息つくくらいの仕儀なんだから向うでこっちを見くびるのは無理はないが、離れ離れの言語の数から云えばあなたよりも我輩の方が余計知っておりますよといってやりたいくらいだ。それからよく御婆さんを引合に出すが、もう一人御婆さんがある。この御婆さんがせんだって手紙をよこしてその中に folk という字を使っている。ただ使っている
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