余と万年筆
夏目漱石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)夫《それ》では

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)此間|魯庵《ろあん》君に
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 此間|魯庵《ろあん》君に会った時、丸善の店で一日に万年筆が何本位売れるだろうと尋ねたら、魯庵君は多い時は百本位出るそうだと答えた。夫《それ》では一本の万年筆がどの位長く使えるだろうと聞いたら、此間横浜のもので、ペンはまだ可なりだが、軸《じく》が減ったから軸|丈《だけ》易《か》えて呉《く》れと云って持って来たのがあるが、此人は十三年前に一本買ったぎりで、其一本を今日まで絶えず使用していたのだというから、是《これ》がまあ一番長い例らしいと話した。して見ると普通の場合ではいくら残酷に使っても大抵六七年の保証は付けられるのが、一般の万年筆の運命らしい。一本で夫程《それほど》長く使えるものが日に百本も出ると云えば万年筆を需用する人の範囲は非常な勢を以《もっ》て広がりつつあると見ても満更《まんざら》見当違《けんとうちが》いの観察とも云われない様である。尤《もっと》も多い中には万年筆道楽という様な人があ
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