予の描かんと欲する作品
夏目漱石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)如何《いか》なる

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)希望|丈《だ》け
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 如何《いか》なるものを描かんと欲するかとの御質問であるが、私は、如何なるものをも書きたいと思う。自分の能力の許す限りは、色々種類の変化したものを書きたい。自分の性情に適したものは、なるべく多方面に亙《わた》って書きたい。然《しか》し、私のような人間であるから、それは単に希望|丈《だ》けで、其希望通りに書くことは出来ないかも知れぬ。で、御質問に対して漠然《ばくぜん》としたお答えではあるが、大抵以上に尽きて居る。私は、或る主義主張があって、その主義主張を創作に依って世に示して居るのではない。であるから、斯《こ》う云うものを書いて斯うしたいと云う、局部的な考えは別にない。従って、社会一般に及ぼす影響とか、感化とか云うけれ共《ども》、それも、作物の種類、性質に依って自《おのずか》[#底本のルビは「おのず」]ら生じて来るものであるから、斯う云う方面の人を、斯う云う風に、斯う云う点で影響しようと
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