の真中《まんなか》で考え込んでいると、月のさしている向うのはずれで、一二三わあと、三四十人の声がかたまって響《ひび》いたかと思う間もなく、前のように拍子を取って、一同が床板《ゆかいた》を踏み鳴らした。それ見ろ夢じゃないやっぱり事実だ。静かにしろ、夜なかだぞ、とアっちも負けんくらいな声を出して、廊下を向うへ馳《か》けだした。おれの通る路《みち》は暗い、ただはずれに見える月あかりが目標《めじるし》だ。おれが馳け出して二間も来たかと思うと、廊下の真中で、堅《かた》い大きなものに向脛《むこうずね》をぶつけて、あ痛い[#「あ痛い」に傍点]が頭へひびく間に、身体はすとんと前へ抛《ほう》り出された。こん畜生《ちきしょう》と起き上がってみたが、馳けられない。気はせくが、足だけは云う事を利かない。じれったいから、一本足で飛んで来たら、もう足音も人声も静まり返って、森《しん》としている。いくら人間が卑怯だって、こんなに卑怯に出来るものじゃない。まるで豚だ。こうなれば隠れている奴を引きずり出して、あやまらせてやるまではひかないぞと、心を極《き》めて寝室《しんしつ》の一つを開けて中を検査しようと思ったが開かな
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