んだ。罰があるからいたずらも心持ちよく出来る。いたずらだけで罰はご免蒙《めんこうむ》るなんて下劣《げれつ》な根性がどこの国に流行《はや》ると思ってるんだ。金は借りるが、返す事はご免だと云う連中はみんな、こんな奴等が卒業してやる仕事に相違《そうい》ない。全体中学校へ何しにはいってるんだ。学校へはいって、嘘を吐いて、胡魔化《ごまか》して、陰《かげ》でこせこせ生意気な悪いたずらをして、そうして大きな面で卒業すれば教育を受けたもんだと癇違《かんちが》いをしていやがる。話せない雑兵《ぞうひょう》だ。
おれはこんな腐《くさ》った了見《りょうけん》の奴等と談判するのは胸糞《むなくそ》が悪《わ》るいから、「そんなに云われなきゃ、聞かなくっていい。中学校へはいって、上品も下品も区別が出来ないのは気の毒なものだ」と云って六人を逐《お》っ放《ぱな》してやった。おれは言葉や様子こそあまり上品じゃないが、心はこいつらよりも遥《はる》かに上品なつもりだ。六人は悠々《ゆうゆう》と引き揚《あ》げた。上部《うわべ》だけは教師のおれよりよっぽどえらく見える。実は落ち付いているだけなお悪るい。おれには到底《とうてい》これ
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