もし[#「なもし」に傍点]を使う奴だ。
「イナゴでもバッタでも、何でおれの床の中へ入れたんだ。おれがいつ、バッタを入れてくれと頼《たの》んだ」
「誰も入れやせんがな」
「入れないものが、どうして床の中に居るんだ」
「イナゴは温《ぬく》い所が好きじゃけれ、大方一人でおはいりたのじゃあろ」
「馬鹿あ云え。バッタが一人でおはいりになるなんて――バッタにおはいりになられてたまるもんか。――さあなぜこんないたずらをしたか、云え」
「云えてて、入れんものを説明しようがないがな」
けちな奴等《やつら》だ。自分で自分のした事が云えないくらいなら、てんでしないがいい。証拠《しょうこ》さえ挙がらなければ、しらを切るつもりで図太く構えていやがる。おれだって中学に居た時分は少しはいたずらもしたもんだ。しかしだれがしたと聞かれた時に、尻込みをするような卑怯《ひきょう》な事はただの一度もなかった。したものはしたので、しないものはしないに極《きま》ってる。おれなんぞは、いくら、いたずらをしたって潔白なものだ。嘘を吐《つ》いて罰《ばつ》を逃《に》げるくらいなら、始めからいたずらなんかやるものか。いたずらと罰はつきも
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