やろうと思った事をやめるようなおれではないが、何でこんな狭苦しい鼻の先がつかえるような所へ来たのかと思うと情なくなった。それでうちへ帰ると相変らず骨董責である。
四
学校には宿直があって、職員が代る代るこれをつとめる。但《ただ》し狸《たぬき》と赤シャツは例外である。何でこの両人が当然の義務を免《まぬ》かれるのかと聞いてみたら、奏任待遇《そうにんたいぐう》だからと云う。面白くもない。月給はたくさんとる、時間は少ない、それで宿直を逃《の》がれるなんて不公平があるものか。勝手な規則をこしらえて、それが当《あた》り前《まえ》だというような顔をしている。よくまああんなにずうずうしく出来るものだ。これについては大分不平であるが、山嵐《やまあらし》の説によると、いくら一人《ひとり》で不平を並《なら》べたって通るものじゃないそうだ。一人だって二人《ふたり》だって正しい事なら通りそうなものだ。山嵐は might is right という英語を引いて説諭《せつゆ》を加えたが、何だか要領を得ないから、聞き返してみたら強者の権利と云う意味だそうだ。強者の権利ぐらいなら昔《むかし》から知っている
前へ
次へ
全210ページ中47ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング