かけもの》をもって来た。自分で床《とこ》の間《ま》へかけて、いい出来じゃありませんかと云うから、そうかなと好加減《いいかげん》に挨拶《あいさつ》をすると、華山には二人《ふたり》ある、一人は何とか華山で、一人は何とか華山ですが、この幅《ふく》はその何とか華山の方だと、くだらない講釈をしたあとで、どうです、あなたなら十五円にしておきます。お買いなさいと催促《さいそく》をする。金がないと断わると、金なんか、いつでもようございますとなかなか頑固《がんこ》だ。金があつても買わないんだと、その時は追っ払《ぱら》っちまった。その次には鬼瓦《おにがわら》ぐらいな大硯《おおすずり》を担ぎ込んだ。これは端渓《たんけい》です、端渓ですと二|遍《へん》も三遍も端渓がるから、面白半分に端渓た何だいとキいたら、すぐ講釈を始め出した。端渓には上層中層下層とあって、今時のものはみんな上層ですが、これはたしかに中層です、この眼《がん》をご覧なさい。眼が三つあるのは珍《めず》らしい。溌墨《はつぼく》の具合も至極よろしい、試してご覧なさいと、おれの前へ大きな硯を突《つ》きつける。いくらだと聞くと、持主が支那《しな》から持っ
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