見るほど楽じゃないと思った。授業はひと通り済んだが、まだ帰れない、三時までぽつ然《ねん》として待ってなくてはならん。三時になると、受持級の生徒が自分の教室を掃除《そうじ》して報知《しらせ》にくるから検分をするんだそうだ。それから、出席簿《しゅっせきぼ》を一応調べてようやくお暇《ひま》が出る。いくら月給で買われた身体《からだ》だって、あいた時間まで学校へ縛《しば》りつけて机と睨《にら》めっくらをさせるなんて法があるものか。しかしほかの連中はみんな大人《おとな》しくご規則通りやってるから新参のおればかり、だだを捏《こ》ねるのもよろしくないと思って我慢《がまん》していた。帰りがけに、君何でもかんでも三時|過《すぎ》まで学校にいさせるのは愚《おろか》だぜと山嵐に訴えたら、山嵐はそうさアハハハと笑ったが、あとから真面目《まじめ》になって、君あまり学校の不平を云うと、いかんぜ。云うなら僕《ぼく》だけに話せ、随分《ずいぶん》妙な人も居るからなと忠告がましい事を云った。四つ角で分れたから詳《くわ》しい事は聞くひまがなかった。
それからうちへ帰ってくると、宿の亭主《ていしゅ》がお茶を入れましょうと云っ
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