」に傍点]は生温《なまぬ》るい言葉だ。早過ぎるなら、ゆっくり云ってやるが、おれは江戸っ子だから君等《きみら》の言葉は使えない、分《わか》らなければ、分るまで待ってるがいいと答えてやった。この調子で二時間目は思ったより、うまく行った。ただ帰りがけに生徒の一人がちょっとこの問題を解釈をしておくれんかな、もし、と出来そうもない幾何《きか》の問題を持って逼《せま》ったには冷汗《ひやあせ》を流した。仕方がないから何だか分らない、この次教えてやると急いで引き揚《あ》げたら、生徒がわあと囃《はや》した。その中に出来ん出来んと云う声が聞《きこ》える。箆棒《べらぼう》め、先生だって、出来ないのは当り前だ。出来ないのを出来ないと云うのに不思議があるもんか。そんなものが出来るくらいなら四十円でこんな田舎へくるもんかと控所へ帰って来た。今度はどうだとまた山嵐が聞いた。うんと云ったが、うんだけでは気が済まなかったから、この学校の生徒は分らずやだなと云ってやった。山嵐は妙《みょう》な顔をしていた。
三時間目も、四時間目も昼過ぎの一時間も大同小異であった。最初の日に出た級は、いずれも少々ずつ失敗した。教師ははたで
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