るから、蒼くふくれるんですと教えてくれた。それ以来蒼くふくれた人を見れば必ずうらなりの唐茄子を食った酬《むく》いだと思う。この英語の教師もうらなりばかり食ってるに違《ちが》いない。もっともうらなりとは何の事か今もって知らない。清に聞いてみた事はあるが、清は笑って答えなかった。大方清も知らないんだろう。それからおれと同じ数学の教師に堀田《ほった》というのが居た。これは逞《たくま》しい毬栗坊主《いがぐりぼうず》で、叡山《えいざん》の悪僧《あくそう》と云うべき面構《つらがまえ》である。人が叮寧《ていねい》に辞令を見せたら見向きもせず、やあ君が新任の人か、ちと遊びに来給《きたま》えアハハハと云った。何がアハハハだ。そんな礼儀《れいぎ》を心得ぬ奴の所へ誰が遊びに行くものか。おれはこの時からこの坊主に山嵐《やまあらし》という渾名《あだな》をつけてやった。漢学の先生はさすがに堅《かた》いものだ。昨日お着きで、さぞお疲れで、それでもう授業をお始めで、大分ご励精《れいせい》で、――とのべつに弁じたのは愛嬌《あいきょう》のあるお爺《じい》さんだ。画学の教師は全く芸人風だBべらべらした透綾《すきや》の羽織を
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