ば大学の卒業生だからえらい人なんだろう。妙《みょう》に女のような優しい声を出す人だった。もっとも驚いたのはこの暑いのにフランネルの襯衣《しゃつ》を着ている。いくらか薄《うす》い地には相違《そうい》なくっても暑いには極ってる。文学士だけにご苦労千万な服装《なり》をしたもんだ。しかもそれが赤シャツだから人を馬鹿《ばか》にしている。あとから聞いたらこの男は年が年中赤シャツを着るんだそうだ。妙な病気があった者だ。当人の説明では赤は身体《からだ》に薬になるから、衛生のためにわざわざ誂《あつ》らえるんだそうだが、入らざる心配だ。そんならついでに着物も袴《はかま》も赤にすればいい。それから英語の教師に古賀《こが》とか云う大変顔色の悪《わ》るい男が居た。大概顔の蒼《あお》い人は瘠《や》せてるもんだがこの男は蒼くふくれている。昔《むかし》小学校へ行く時分、浅井《あさい》の民《たみ》さんと云う子が同級生にあったが、この浅井のおやじがやはり、こんな色つやだった。浅井は百姓《ひゃくしょう》だから、百姓になるとあんな顔になるかと清に聞いてみたら、そうじゃありません、あの人はうらなりの唐茄子《とうなす》ばかり食べ
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