ろと済《すま》して顔を洗って、部屋へ帰って待ってると、夕べの下女が膳を持って来た。盆《ぼん》を持って給仕をしながら、やににやにや笑ってる。失敬な奴だ。顔のなかをお祭りでも通りゃしまいし。これでもこの下女の面《つら》よりよっぽど上等だ。飯を済ましてからにしようと思っていたが、癪《しゃく》に障《さわ》ったから、中途《ちゅうと》で五円|札《さつ》を一|枚《まい》出して、あとでこれを帳場へ持って行けと云ったら、下女は変な顔をしていた。それから飯を済ましてすぐ学校へ出懸《でか》けた。靴《くつ》は磨《みが》いてなかった。
 学校は昨日《きのう》車で乗りつけたから、大概《たいがい》の見当は分っている。四つ角を二三度曲がったらすぐ門の前へ出た。門から玄関《げんかん》までは御影石《みかげいし》で敷《し》きつめてある。きのうこの敷石の上を車でがらがらと通った時は、無暗《むやみ》に仰山《ぎょうさん》な音がするので少し弱った。途中から小倉《こくら》の制服を着た生徒にたくさん逢《あ》ったが、みんなこの門をはいって行く。中にはおれより背が高くって強そうなのが居る。あんな奴を教えるのかと思ったら何だか気味が悪《わ》
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