事ではない」
「だまれ」と山嵐は拳骨《げんこつ》を食わした。赤シャツはよろよろしたが「これは乱暴だ、狼藉《ろうぜき》である。理非を弁じないで腕力に訴えるのは無法だ」
「無法でたくさんだ」とまたぽかりと撲《な》ぐる。「貴様のような奸物はなぐらなくっちゃ、答えないんだ」とぽかぽかなぐる。おれも同時に野だを散々に擲き据えた。しまいには二人とも杉の根方にうずくまって動けないのか、眼がちらちらするのか逃げようともしない。
「もうたくさんか、たくさんでなけりゃ、まだ撲《なぐ》ってやる」とぽかんぽかんと両人《ふたり》でなぐったら「もうたくさんだ」と云った。野だに「貴様もたくさんか」と聞いたら「無論たくさんだ」と答えた。
「貴様等は奸物だから、こうやって天誅を加えるんだ。これに懲《こ》りて以来つつしむがいい。いくら言葉|巧《たく》みに弁解が立っても正義は許さんぞ」と山嵐が云ったら両人共《ふたりとも》だまっていた。ことによると口をきくのが退儀《たいぎ》なのかも知れない。
「おれは逃げも隠《かく》れもせん。今夜五時までは浜の港屋に居る。用があるなら巡査《じゅんさ》なりなんなり、よこせ」と山嵐が云うから、お
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