れも「おれも逃げも隠れもしないぞ。堀田と同じ所に待ってるから警察へ訴《うった》えたければ、勝手に訴えろ」と云って、二人してすたすたあるき出した。
 おれが下宿へ帰ったのは七時少し前である。部屋へはいるとすぐ荷作りを始めたら、婆さんが驚いて、どうおしるのぞなもしと聞いた。お婆さん、東京へ行って奥さんを連れてくるんだと答えて勘定を済まして、すぐ汽車へ乗って浜へ来て港屋へ着くと、山嵐は二階で寝ていた。おれは早速辞表を書こうと思ったが、何と書いていいか分らないから、私儀《わたくしぎ》都合|有之《これあり》辞職の上東京へ帰り申候《もうしそろ》につき左様御承知被下度候《さようごしょうちくだされたくそろ》以上とかいて校長|宛《あて》にして郵便で出した。
 汽船は夜六時の出帆《しゅっぱん》である。山嵐もおれも疲れて、ぐうぐう寝込んで眼が覚めたら、午後二時であった。下女に巡査は来ないかと聞いたら参りませんと答えた。「赤シャツも野だも訴えなかったなあ」と二人は大きに笑った。
 その夜おれと山嵐はこの不浄《ふじょう》な地を離《はな》れた。船が岸を去れば去るほどいい心持ちがした。神戸から東京までは直行で新橋へ
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