袂の中の卵がぶらぶらして困るから、両手で握りながら来たのである。おれはいきなり袂へ手を入れて、玉子を二つ取り出して、やっと云いながら、野だの面へ擲《たた》きつけた。玉子がぐちゃりと割れて鼻の先から黄味がだらだら流れだした。野だはよっぽど仰天《ぎょうてん》した者と見えて、わっと言いながら、尻持《しりもち》をついて、助けてくれと云った。おれは食うために玉子は買ったが、打《ぶ》つけるために袂へ入れてる訳ではない。ただ肝癪《かんしゃく》のあまりに、ついぶつけるともなしに打つけてしまったのだ。しかし野だが尻持を突いたところを見て始めて、おれの成功した事に気がついたから、こん畜生《ちくしょう》、こん畜生と云いながら残る六つを無茶苦茶に擲《たた》きつけたら、野だは顔中黄色になった。
おれが玉子をたたきつけているうち、山嵐と赤シャツはまだ談判最中である。
「芸者をつれて僕が宿屋へ泊ったと云う証拠《しょうこ》がありますか」
「宵に貴様のなじみの芸者が角屋へはいったのを見て云う事だ。胡魔化せるものか」
「胡魔化す必要はない。僕は吉川君と二人で泊ったのである。芸者が宵にはいろうが、はいるまいが、僕の知った
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