うと、見えがくれについて来た。町を外《はず》れると急に馳《か》け足《あし》の姿勢で、はやてのように後ろから、追いついた。何が来たかと驚ろいて振《ふ》り向く奴を待てと云って肩に手をかけた。野だは狼狽《ろうばい》の気味で逃げ出そうという景色《けしき》だったから、おれが前へ廻って行手を塞《ふさ》いでしまった。
「教頭の職を持ってるものが何で角屋へ行って泊《とま》った」と山嵐はすぐ詰《なじ》りかけた。
「教頭は角屋へ泊って悪《わ》るいという規則がありますか」と赤シャツは依然《いぜん》として鄭寧《ていねい》な言葉を使ってる。顔の色は少々蒼い。
「取締上《とりしまりじょう》不都合だから、蕎麦屋《そばや》や団子屋《だんごや》へさえはいってはいかんと、云うくらい謹直《きんちょく》な人が、なぜ芸者といっしょに宿屋へとまり込んだ」野だは隙を見ては逃げ出そうとするからおれはすぐ前に立ち塞がって「べらんめえの坊っちゃんた何だ」と怒鳴り付けたら、「いえ君の事を云ったんじゃないんです、全くないんです」と鉄面皮に言訳がましい事をぬかした。おれはこの時気がついてみたら、両手で自分の袂を握《にぎ》ってる。追っかける時に
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