は押せ押せと大きな声を出す。おれは邪魔《じゃま》になる生徒の間をくぐり抜けて、曲がり角へもう少しで出ようとした時に、前へ! と云う高く鋭《するど》い号令が聞《きこ》えたと思ったら師範学校の方は粛粛《しゅくしゅく》として行進を始めた。先を争った衝突は、折合がついたには相違《そうい》ないが、つまり中学校が一歩を譲《ゆず》ったのである。資格から云うと師範学校の方が上だそうだ。
祝勝の式はすこぶる簡単なものであった。旅団長が祝詞を読む、知事が祝詞を読む、参列者が万歳《ばんざい》を唱える。それでおしまいだ。余興は午後にあると云う話だから、ひとまず下宿へ帰って、こないだじゅうから、気に掛《かか》っていた、清への返事をかきかけた。今度はもっと詳《くわ》しく書いてくれとの注文だから、なるべく念入《ねんいり》に認《したた》めなくっちゃならない。しかしいざとなって、半切《はんきれ》を取り上げると、書く事はたくさんあるが、何から書き出していいか、わからない。あれにしようか、あれは面倒臭《めんどうくさ》い。これにしようか、これはつまらない。何か、すらすらと出て、骨が折れなくって、そうして清が面白がるようなも
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