を去られるのを希望しております。延岡は僻遠《へきえん》の地で、当地に比べたら物質上の不便はあるだろう。が、聞くところによれば風俗のすこぶる淳朴《じゅんぼく》な所で、職員生徒ことごとく上代樸直《じょうだいぼくちょく》の気風を帯びているそうである。心にもないお世辞を振《ふ》り蒔《ま》いたり、美しい顔をして君子を陥《おとしい》れたりするハイカラ野郎は一人もないと信ずるからして、君のごとき温良|篤厚《とっこう》の士は必ずその地方一般の歓迎《かんげい》を受けられるに相違《そうい》ない。吾輩《わがはい》は大いに古賀君のためにこの転任を祝するのである。終りに臨んで君が延岡に赴任《ふにん》されたら、その地の淑女《しゅくじょ》にして、君子の好逑《こうきゅう》となるべき資格あるものを択《えら》んで一日《いちじつ》も早く円満なる家庭をかたち作って、かの不貞無節なるお転婆《てんば》を事実の上において慚死《ざんし》せしめん事を希望します。えへんえへんと二つばかり大きな咳払《せきばら》いをして席に着いた。おれは今度も手を叩《たた》こうと思ったが、またみんながおれの面《かお》を見るといやだから、やめにしておいた。山
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