す。しかし暇はかえってない方がいいかも知れない。何ですね。暇のあるものはだいぶいるようだが、余り誰も何もやっていないようじゃありませんか」
「それは人に依《よ》りはしませんか」と高柳君はおれが暇さえあればと云うところを暗《あん》にほのめかした。
「人にも依るでしょう。しかし今の金持ちと云うものは……」と道也は句を半分で切って、机の上を見た。机の上には二寸ほどの厚さの原稿がのっている。障子には洗濯した足袋《たび》の影がさす。
「金持ちは駄目です。金がなくって困ってるものが……」
「金がなくって困ってるものは、困りなりにやればいいのです」と道也先生困ってる癖に太平な事を云う。高柳君は少々不満である。
「しかし衣食のために勢力をとられてしまって……」
「それでいいのですよ。勢力をとられてしまったら、ほかに何にもしないで構わないのです」
青年は唖然《あぜん》として、道也を見た。道也は孔子様のように真面目《まじめ》である。馬鹿にされてるんじゃたまらないと高柳君は思う。高柳君は大抵の事を馬鹿にされたように聞き取る男である。
「先生ならいいかも知れません」とつるつると口を滑《すべ》らして、はっと言
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