とつくろった景色《けしき》もなく云う。高柳君にはこの挨拶振《あいさつぶ》りが気に入った。両人はしばらくの間黙って控えている。道也は相手の来意がわからぬから、先方の切り出すのを待つのが当然と考える。高柳君は昔しの関係を残りなく打ち開《あ》けて、一刻も早く同類|相憐《あいあわれ》むの間柄になりたい。しかしあまり突然であるから、ちょっと言い出しかねる。のみならず、一昔《ひとむか》し前の事とは申しながら、自分達がいじめて追い出した先生が、そのためにかく零落《れいらく》したのではあるまいかと思うと、何となく気がひけて云い切れない。高柳君はこんなところになるとすこぶる勇気に乏《とぼ》しい。謝罪かたがた尋ねはしたが、いよいよと云う段になると少々怖《こわ》くて罪滅《つみほろぼ》しが出来かねる。心にいろいろな冒頭を作って見たが、どれもこれもきまりがわるい。
「だんだん寒くなりますね」と道也先生は、こっちの了簡《りょうけん》を知らないから、超然たる時候の挨拶をする。
「ええ、だいぶ寒くなったようで……」
高柳君の脳中の冒頭はこれでまるで打ち壊されてしまった。いっその事自白はこの次にしようという気になる。
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