を下げる。その代り御医者は――金に頭を下げる」
 道也先生はにやにやと笑った。聴衆もおとなしく笑う。
「それで好《い》いのです。金に頭を下げて結構です――しかし金持はいけない。医者に頭を下げる事を知ってながら、趣味とか、嗜好《しこう》とか、気品とか人品とか云う事に関して、学問のある、高尚な理窟《りくつ》のわかった人に頭を下げることを知らん。のみならずかえって金の力で、それらの頭をさげさせようとする。――盲目《めくら》蛇《へび》に怖《お》じずとはよく云ったものですねえ」
と急に会話調になったのは曲折があった。
「学問のある人、訳のわかった人は金持が金の力で世間に利益を与うると同様の意味において、学問をもって、わけの分ったところをもって社会に幸福を与えるのである。だからして立場こそ違え、彼らはとうてい冒《おか》し得べからざる地位に確たる尻《しり》を据《す》えているのである。
「学者がもし金銭問題にかかれば、自己の本領を棄《す》てて他の縄張内《なわばりうち》に這入《はい》るのだから、金持ちに頭を下げるが順当であろう。同時に金以上の趣味とか文学とか人生とか社会とか云う問題に関しては金持ちの方が
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