さ》まらない。世間の夫は皆道也のようなものかしらん。みんな道也のようだとすれば、この先結婚をする女はだんだん減るだろう。減らないところで見るとほかの旦那様は旦那様らしくしているに違ない。広い世界に自分一人がこんな思《おもい》をしているかと気がつくと生涯の不幸である。どうせ嫁に来たからには出る訳《わけ》には行かぬ。しかし連れ添う夫がこんなでは、臨終まで本当の妻と云う心持ちが起らぬ。これはどうかせねばならぬ。どうにかして夫を自分の考え通りの夫にしなくては生きている甲斐《かい》がない。――細君はこう思案しながら、火鉢をいじくっている。風が枯芭蕉《かればしょう》を吹き倒すほど鳴る。
表に案内がある。寒そうな顔を玄関の障子から出すと、道也の兄が立っている。細君は「おや」と云った。
道也の兄は会社の役員である。その会社の社長は中野君のおやじである。長い二重廻しを玄関へ脱いで座敷へ這入《はい》ってくる。
「だいぶ吹きますね」と薄い更紗《さらさ》の上へ坐って抜け上がった額《ひたい》を逆《さか》に撫《な》でる。
「御寒いのによく」
「ええ、今日は社の方が早く引けたものだから……」
「今御帰り掛けです
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