あるとはたしかに思わなかった。多少の不都合を犠牲にしてまで、高柳君を待ち受けたる夫婦の眼に高柳君の姿がちらと映じた時、待ち受けたにもかかわらず、待ち受け甲斐《がい》のある御客とは夫婦共に思わなかった。友誼《ゆうぎ》の三|分《ぶ》一は服装が引き受ける者である。頭のなかで考えた友達と眼の前へ出て来た友達とはだいぶ違う。高柳君の服装はこの日の来客中でもっとも憐《あわ》れなる服装である。愛は贅沢《ぜいたく》である。美なるもののほかには価値を認めぬ。女はなおさらに価値を認めぬ。
夫婦が高柳君と顔を見合せた時、夫婦共「これは」と思った。高柳君が夫婦と顔を見合せた時、同じく「これは」と思った。
世の中は「これは」と思った時、引き返せぬものである。高柳君は蹌踉《そうろう》として進んでくる。夫婦の胸にはっときざした「これは」は、すぐと愛の光りに姿をかくす。
「やあ、よく来てくれた。あまり遅いから、どうしたかと思って心配していたところだった」偽《いつわ》りもない事実である。ただ「これは」と思った事だけを略したまでである。
「早く来《こ》ようと思ったが、つい用があって……」これも事実である。けれどもやは
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