、聞きますとも」
「おやじは町で郵便局の役人でした。私が七つの年に拘引《こういん》されてしまいました」
 道也先生は、だまったまま、話し手といっしょにゆるく歩《ほ》を運ばして行く。
「あとで聞くと官金を消費したんだそうで――その時はなんにも知りませんでした。母にきくと、おとっさんは今に帰る、今に帰ると云ってました。――しかしとうとう帰って来ません。帰らないはずです。肺病になって、牢屋《ろうや》のなかで死んでしまったんです。それもずっとあとで聞きました。母は家を畳んで村へ引き込みました。……」
 向《むこう》から威勢のいい車が二梃束髪《にちょうそくはつ》の女を乗せてくる。二人はちょっとよける。話はとぎれる。
「先生」
「何ですか」
「だから私には肺病の遺伝があるんです。駄目です」
「医者に見せたですか」
「医者には――見せません。見せたって見せなくったって同じ事です」
「そりゃ、いけない。肺病だって癒《なお》らんとは限らない」
 高柳君は気味の悪い笑いを洩《も》らした。時雨《しぐれ》がはらはらと降って来る。からたち寺《でら》の門の扉に碧巌録提唱《へきがんろくていしょう》と貼《は》りつけた
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