周《まわ》るといい散歩になる。ハハハハ」
高柳君はちょっといい心持ちになった。
「先生は?」
「僕ですか、僕はなかなか散歩する暇なんかないです。不相変《あいかわらず》多忙でね。今日はちょっと上野の図書館まで調べ物に行ったです」
高柳君は道也先生に逢《あ》うと何だか元気が出る。一人坊っちでありながら、こう平気にしている先生が現在世のなかにあると思うと、多少は心丈夫になると見える。
「先生もう少し散歩をなさいませんか」
「そう、少しなら、してもいい。どっちの方へ。上野はもうよそう。今通って来たばかりだから」
「私はどっちでもいいのです」
「じゃ坂を上《あが》って、本郷の方へ行きましょう。僕はあっちへ帰るんだから」
二人は電車の路を沿うてあるき出した。高柳君は一人坊っちが急に二人坊っちになったような気がする。そう思うと空も広く見える。もう綱曳《つなひき》から突き飛ばされる気遣《きづかい》はあるまいとまで思う。
「先生」
「何ですか」
「さっき、車屋から突き飛ばされました」
「そりゃ、あぶなかった。怪我《けが》をしやしませんか」
「いいえ、怪我はしませんが、腹は立ちました」
「そう。しか
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