さるって、これから何をなさるおつもりですか」
「別にこれと云うつもりもないがね、まあ、そのうち、どうかなるだろう」
「その内《うち》どうかなるだろうって、それじゃまるで雲を攫《つか》むような話しじゃありませんか」
「そうさな。あんまり判然《はんぜん》としちゃいない」
「そう呑気《のんき》じゃ困りますわ。あなたは男だからそれでようござんしょうが、ちっとは私の身にもなって見て下さらなくっちゃあ……」
「だからさ、もう田舎へは行かない、教師にもならない事にきめたんだよ」
「きめるのは御勝手ですけれども、きめたって月給が取れなけりゃ仕方がないじゃありませんか」
「月給がとれなくっても金がとれれば、よかろう」
「金がとれれば……そりゃようござんすとも」
「そんなら、いいさ」
「いいさって、御金がとれるんですか、あなた」
「そうさ、まあ取れるだろうと思うのさ」
「どうして?」
「そこは今考え中だ。そう着《ちゃく》、早々《そうそう》計画が立つものか」
「だから心配になるんですわ。いくら東京にいるときめたって、きめただけの思案《しあん》じゃ仕方がないじゃありませんか」
「どうも御前《おまえ》はむやみに
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