ある。しかして愛の空気を呼吸するものは迷とも悟とも知らぬ。ただおのずから人を引きまた人に引かるる。自然は真空を忌《い》み愛は孤立《こりつ》を嫌《きら》う。
「わたし、本当に御気の毒だと思いますわ。わたしが、そんなになったら、どうしようと思うと」
愛は己《おの》れに対して深刻なる同情を有している。ただあまりに深刻なるが故に、享楽の満足ある場合に限りて、自己を貫《つらぬ》き出でて、人の身の上にもまた普通以上の同情を寄せる事ができる。あまりに深刻なるが故に失恋の場合において、自己を貫き出でて、人の身の上にもまた普通以上の怨恨《えんこん》を寄せる事が出来る。愛に成功するものは必ず自己を善人と思う。愛に失敗するものもまた必ず自己を善人と思う。成敗《せいばい》に論なく、愛は一直線である。ただ愛の尺度をもって万事を律する。成功せる愛は同情を乗せて走る馬車馬《ばしゃうま》である。失敗せる愛は怨恨を乗せて走る馬車馬《ばしゃうま》である。愛はもっともわがままなるものである。
もっともわがままなる善人が二人、美くしく飾りたる室《しつ》に、深刻なる遊戯を演じている。室外の天下は蕭寥《しょうりょう》たる秋で
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