すぐ座敷である。南が玄関で塞《ふさ》がれているので、突き当りの障子が、日向《ひなた》から急に這入《はい》って来た眸《ひとみ》には、うそ寒く映った。そこを開けると、廂《ひさし》に逼《せま》るような勾配《こうばい》の崖《がけ》が、縁鼻《えんばな》から聳《そび》えているので、朝の内は当って然《しか》るべきはずの日も容易に影を落さない。崖には草が生えている。下からして一側《ひとかわ》も石で畳んでないから、いつ壊《くず》れるか分らない虞《おそれ》があるのだけれども、不思議にまだ壊れた事がないそうで、そのためか家主《やぬし》も長い間昔のままにして放ってある。もっとも元は一面の竹藪《たけやぶ》だったとかで、それを切り開く時に根だけは掘り返さずに土堤《どて》の中に埋めて置いたから、地《じ》は存外|緊《しま》っていますからねと、町内に二十年も住んでいる八百屋の爺《おやじ》が勝手口でわざわざ説明してくれた事がある。その時宗助はだって根が残っていれば、また竹が生えて藪になりそうなものじゃないかと聞き返して見た。すると爺は、それがね、ああ切り開かれて見ると、そう甘《うま》く行くもんじゃありませんよ。しかし崖だ
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