。その上でまた相談するとしよう」と云ったので、談話《はなし》に区切がついた。
 小六が帰りがけに茶の間を覗《のぞ》いたら、御米は何にもしずに、長火鉢《ながひばち》に倚《よ》りかかっていた。
「姉さん、さようなら」と声を掛けたら、「おや御帰り」と云いながらようやく立って来た。

        四

 小六《ころく》の苦《く》にしていた佐伯《さえき》からは、予期の通り二三日して返事があったが、それは極《きわ》めて簡単なもので、端書《はがき》でも用の足りるところを、鄭重《ていちょう》に封筒へ入れて三銭の切手を貼《は》った、叔母の自筆に過ぎなかった。
 役所から帰って、筒袖《つつそで》の仕事着を、窮屈そうに脱《ぬ》ぎ易《か》えて、火鉢《ひばち》の前へ坐《すわ》るや否や、抽出《ひきだし》から一寸ほどわざと余して差し込んであった状袋に眼が着いたので、御米《およね》の汲んで出す番茶を一口|呑《の》んだまま、宗助《そうすけ》はすぐ封を切った。
「へえ、安《やす》さんは神戸へ行ったんだってね」と手紙を読みながら云った。
「いつ?」と御米は湯呑を夫の前に出した時の姿勢のままで聞いた。
「いつとも書いてな
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