らいた。互に抱《だ》き合って、丸い円を描《えが》き始めた。彼らの生活は淋《さみ》しいなりに落ちついて来た。その淋しい落ちつきのうちに、一種の甘い悲哀を味わった。文芸にも哲学にも縁のない彼らは、この味を舐《な》め尽しながら、自分で自分の状態を得意がって自覚するほどの知識を有《も》たなかったから、同じ境遇にある詩人や文人などよりも、一層純粋であった。――これが七日《なのか》の晩に坂井へ呼ばれて、安井の消息を聞くまでの夫婦の有様であった。
 その夜宗助は家に帰って御米の顔を見るや否《いな》や、
「少し具合が悪いから、すぐ寝よう」と云って、火鉢《ひばち》に倚《よ》りながら、帰《かえり》を待ち受けていた御米を驚ろかした。
「どうなすったの」と御米は眼を上げて宗助を眺《なが》めた。宗助はそこに突っ立っていた。
 宗助が外から帰って来て、こんな風をするのは、ほとんど御米の記憶にないくらい珍らしかった。御米は卒然何とも知れない恐怖の念に襲《おそ》われたごとくに立ち上がったが、ほとんど器械的に、戸棚《とだな》から夜具蒲団《やぐふとん》を取り出して、夫の云いつけ通り床を延べ始めた。その間宗助はやっぱり懐手
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