べ》四条の人込の中で、安井によく似た浴衣《ゆかた》がけの男を見たと答えた事があった。しかし宗助にはそれが安井だろうとは信じられなかった。ところがその話を聞いた翌日、すなわち宗助が京都へ着いてから約一週間の後、話の通りの服装《なり》をした安井が、突然宗助の所へ尋ねて来た。
宗助は着流しのまま麦藁帽《むぎわらぼう》を手に持った友達の姿を久し振に眺めた時、夏休み前の彼の顔の上に、新らしい何物かがさらに付け加えられたような気がした。安井は黒い髪に油を塗って、目立つほど奇麗《きれい》に頭を分けていた。そうして今床屋へ行って来たところだと言訳らしい事を云った。
その晩彼は宗助と一時間余りも雑談に耽《ふけ》った。彼の重々しい口の利き方、自分を憚《はば》かって、思い切れないような話の調子、「しかるに」と云う口癖、すべて平生の彼と異なる点はなかった。ただ彼はなぜ宗助より先へ横浜を立ったかを語らなかった。また途中どこで暇取《ひまど》ったため、宗助より後《おく》れて京都へ着いたかを判然《はっきり》告げなかった。しかし彼は三四日前ようやく京都へ着いた事だけを明かにした。そうして、夏休み前にいた下宿へはまだ
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