かん》に掛けて、興津を去った。
京都へ着いた一日目は、夜汽車の疲れやら、荷物の整理やらで、往来の日影を知らずに暮らした。二日目になってようやく学校へ出て見ると、教師はまだ出揃《でそろ》っていなかった。学生も平日《いつも》よりは数が不足であった。不審な事には、自分より三四《さんよ》っ日《か》前に帰っているべきはずの安井の顔さえどこにも見えなかった。宗助はそれが気にかかるので、帰りにわざわざ安井の下宿へ回って見た。安井のいる所は樹と水の多い加茂《かも》の社《やしろ》の傍であった。彼は夏休み前から、少し閑静な町外れへ移って勉強するつもりだとか云って、わざわざこの不便な村同様な田舎《いなか》へ引込んだのである。彼の見つけ出した家からが寂《さび》た土塀《どべい》を二方に回《めぐ》らして、すでに古風に片づいていた。宗助は安井から、そこの主人はもと加茂神社の神官の一人であったと云う話を聞いた。非常に能弁な京都言葉を操《あやつ》る四十ばかりの細君がいて、安井の世話をしていた。
「世話って、ただ不味《まず》い菜《さい》を拵《こし》らえて、三度ずつ室《へや》へ運んでくれるだけだよ」と安井は移り立てからこ
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