の好い夫婦に違なかった。いっしょになってから今日《こんにち》まで六年ほどの長い月日を、まだ半日も気不味《きまず》く暮した事はなかった。言逆《いさかい》に顔を赤らめ合った試《ためし》はなおなかった。二人は呉服屋の反物を買って着た。米屋から米を取って食った。けれどもその他には一般の社会に待つところのきわめて少ない人間であった。彼らは、日常の必要品を供給する以上の意味において、社会の存在をほとんど認めていなかった。彼らに取って絶対に必要なものは御互だけで、その御互だけが、彼らにはまた充分であった。彼らは山の中にいる心を抱《いだ》いて、都会に住んでいた。
 自然の勢《いきおい》として、彼らの生活は単調に流れない訳に行かなかった。彼らは複雑な社会の煩《わずらい》を避け得たと共に、その社会の活動から出るさまざまの経験に直接触れる機会を、自分と塞《ふさ》いでしまって、都会に住みながら、都会に住む文明人の特権を棄《す》てたような結果に到着した。彼らも自分達の日常に変化のない事は折々自覚した。御互が御互に飽《あ》きるの、物足りなくなるのという心は微塵《みじん》も起らなかったけれども、御互の頭に受け入れる
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