Gambling《ガムブリング》(博奕史《ばくえきし》)と云うのが、ことさらに美装して、一番真中に飾られてあったので、それが幾分か彼の頭に突飛《とっぴ》な新し味を加えただけであった。
宗助は微笑しながら、急忙《せわ》しい通りを向側《むこうがわ》へ渡って、今度は時計屋の店を覗《のぞ》き込んだ。金時計だの金鎖が幾つも並べてあるが、これもただ美しい色や恰好《かっこう》として、彼の眸《ひとみ》に映るだけで、買いたい了簡《りょうけん》を誘致するには至らなかった。その癖彼は一々絹糸で釣るした価格札《ねだんふだ》を読んで、品物と見較《みくら》べて見た。そうして実際金時計の安価なのに驚ろいた。
蝙蝠傘屋《こうもりがさや》の前にもちょっと立ちどまった。西洋|小間物《こまもの》を売る店先では、礼帽《シルクハット》の傍《わき》にかけてあった襟飾《えりかざ》りに眼がついた。自分の毎日かけているのよりも大変|柄《がら》が好かったので、価《ね》を聞いてみようかと思って、半分店の中へ這入《はい》りかけたが、明日《あした》から襟飾りなどをかけ替えたところが下らない事だと思い直すと、急に蟇口《がまぐち》の口を開け
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