様などの中に、この屏風を立てて見て、それに、召使が二人がかりで、蔵の中から大事そうに取り出して来たと云う所作《しょさ》を付け加えて考えると、自分が持っていた時よりは、たしかに十倍以上|貴《たっ》とい品のように眺《なが》められただけであった。彼は即座に云うべき言葉を見出し得なかったので、いたずらに、見慣れたものの上に、さらに新らしくもない眼を据《す》えていた。
 主人は宗助をもってある程度の鑑賞家と誤解した。立ちながら屏風の縁《ふち》へ手を掛けて、宗助の面《おもて》と屏風の面とを比較していたが、宗助が容易に批評を下さないので、
「これは素性《すじょう》のたしかなものです。出が出ですからね」と云った。宗助は、ただ
「なるほど」と云った。
 主人はやがて宗助の後へ回って来て、指でそこここを指《さ》しながら、品評やら説明やらした。その中《うち》には、さすが御大名だけあって、好い絵の具を惜気《おしげ》もなく使うのがこの画家の特色だから、色がいかにもみごとであると云うような、宗助には耳新らしいけれども、普通一般に知れ渡った事もだいぶ交っていた。
 宗助は好い加減な頃を見計らって、丁寧《ていねい》に
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