らしい返事をしたが、それを緒《いとくち》に、子供の世話の焼けて、夥《おびた》だしく手のかかる事などをいろいろ宗助に話して聞かした。その中《うち》で綺麗《きれい》な支那製の花籃《はなかご》のなかへ炭団《たどん》を一杯|盛《も》って床の間に飾ったと云う滑稽《こっけい》と、主人の編上の靴のなかへ水を汲み込んで、金魚を放したと云う悪戯《いたずら》が、宗助には大変耳新しかった。しかし、女の子が多いので服装に物が要《い》るとか、二週間も旅行して帰ってくると、急にみんなの背が一寸《いっすん》ずつも伸びているので、何だか後《うしろ》から追いつかれるような心持がするとか、もう少しすると、嫁入の支度で忙殺《ぼうさつ》されるのみならず、きっと貧殺《ひんさつ》されるだろうとか云う話になると、子供のない宗助の耳にはそれほどの同情も起し得なかった。かえって主人が口で子供を煩冗《うるさ》がる割に、少しもそれを苦にする様子の、顔にも態度にも見えないのを羨《うらや》ましく思った。
 好い加減な頃を見計《みはから》って宗助は、せんだって話のあった屏風《びょうぶ》をちょっと見せて貰えまいかと、主人に申し出た。主人はさっそく
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