している人間で、手を出して握手をしたりする。下層社会の女などがよくあの人は様子《ようす》が宜《い》いということをいうが、様子が宜い位で女に惚れられるのは、男子の不面目《ふめんぼく》だと思います。様子が宜いというのは、人を外《そ》らさないということになる。唯|御座《おざ》なりを言うということになる。余りブッキラボーでない、当《あた》り触《さわ》りが宜いというので御座います。鮮《あざや》かで穏かで寔《まこと》に宜い。それは悪い事とは思いません。そういう人に接している方が野蛮人に接しているよりは宜い。一口感情を害しても直《す》ぐに擲《なぐ》られるというような人より宜い。それを攻撃する訳じゃありませんが、しかしそれだけでは人格問題じゃない。人格問題じゃないというのは――随分悪い事をして、人の金をただ取るとか、法律に触れるような事をしないまでも非道《ひど》いずるい事をしたり、種々雑多な事をやって、立派な家に這入って、自動車なんぞに乗って、そうして会って見ると寔《まこと》に調子が好くて、品《ひん》が好くて、ノッペリしている。そうして人格というものはどうかというと、余り感服《かんぷく》出来ない人が沢
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