展《ぶんてん》を見に行きました。(私は御存知の通り、職業が職業ですから、御話する事は一般の事でも、あるいは文芸ということが例になったり、またその方から出立《しゅったつ》する事が多いかも知れませんから、その方に興味のない方《かた》には御気の毒ですが、まあ仕方がない、御聴きを願います。)で、今申しましたように、この間《あいだ》文展を見に行きました。それで文展を見てチョッと感じました。どうも私は文部省の展覧会に反対をしたり、博士を辞したり、甚《はなは》だ文部省に受けが悪い人間でありますが今度の文展も公《おおやけ》には書きませんでしたが、どうも大変面白くありませんでした。殊に私は日本画の方で、まあそうだと思います。西洋画の方についてもいえばいえますが、その方は後にして置いて、日本画の方について申します。
 一向《いっこう》面白くなかった。あの画の内どれを見ても面白くない。中には例外はありますけれども、どれを見ても面白くない。唯面白くないといっても分らぬから、訳をいわなくちゃならんが、どれを見てもノッペリしている。ノッペリしているという意味は御手際《おてぎわ》が好いというので、褒《ほ》めているの
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