ッついていた叔父は、自分の口を出さなければならない時機に到着した人のように、皿から眼を放した。
三十一
「だいぶやかましくなって来たね。黙って聞いていると、叔母《おば》甥《おい》の対話とは思えないよ」
二人の間にこう云って割り込んで来た叔父はその実《じつ》行司でも審判官でもなかった。
「何だか双方|敵愾心《てきがいしん》をもって云い合ってるようだが、喧嘩《けんか》でもしたのかい」
彼の質問は、単に質問の形式を具えた注意に過ぎなかった。真事《まこと》を相手にビー珠《だま》を転がしていた小林が偸《ぬす》むようにしてこっちを見た。叔母も津田も一度に黙ってしまった。叔父はついに調停者の態度で口を開かなければならなくなった。
「由雄、御前見たような今の若いものには、ちょっと理解出来|悪《にく》いかも知れないがね、叔母さんは嘘《うそ》を吐《つ》いてるんじゃないよ。知りもしないおれの所へ来るとき、もうちゃんと覚悟をきめていたんだからね。叔母さんは本当に来ない前から来た後《あと》と同じように真面目だったのさ」
「そりゃ僕だって伺わないでも承知しています」
「ところがさ、その叔母
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