《すえしじゅう》和合するとは限らないんだから」
 叔母の見て来た世の中を正直に纏《まと》めるとこうなるよりほかに仕方なかった。この大きな事実の一隅《いちぐう》にお金さんの結婚を安全におこうとする彼女の態度は、弁護的というよりもむしろ説明的であった。そうしてその説明は津田から見ると最も不完全でまた最も不安全であった。結婚について津田の誠実を疑うような口ぶりを見せた叔母こそ、この点にかけて根本的な真面目《まじめ》さを欠いているとしか彼には思えなかった。
「そりゃ楽な身分の人の云い草ですよ」と叔母は開き直って津田に云った。「やれ交際だの、やれ婚約だのって、そんな贅沢《ぜいたく》な事を、我々|風情《ふぜい》が云ってられますか。貰ってくれ手、来てくれ手があれば、それでありがたいと思わなくっちゃならないくらいのものです」
 津田はみんなの手前今のお金さんの場合についてかれこれ云いたくなかった。それをいうほどの深い関係もなくまた興味もない彼は、ただ叔母が自分に対してもつ、不真面目《ふまじめ》という疑念を塗り潰《つぶ》すために、向うの不真面目さを啓発しておかなくてはいけないという心持に制せられるので、
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