かげん》になって鄭寧《ていねい》に林檎《りんご》の皮を剥《む》いている清子の手先を眺めた。滴《したた》るように色づいた皮が、ナイフの刃を洩《も》れながら、ぐるぐると剥《む》けて落ちる後に、水気の多そうな薄蒼《うすあお》い肉がしだいに現われて来る変化は彼に一年以上|経《た》った昔を憶《おも》い起させた。
「あの時この人は、ちょうどこういう姿勢で、こういう林檎《りんご》を剥《む》いてくれたんだっけ」
ナイフの持ち方、指の運び方、両肘《りょうひじ》を膝《ひざ》とすれすれにして、長い袂《たもと》を外へ開いている具合、ことごとくその時の模写であったうちに、ただ一つ違うところのある点に津田は気がついた。それは彼女の指を飾る美くしい二個《ふたつ》の宝石であった。もしそれが彼女の結婚を永久に記念するならば、そのぎらぎらした小さい光ほど、津田と彼女の間を鋭どく遮《さえ》ぎるものはなかった。柔婉《しなやか》に動く彼女の手先を見つめている彼の眼は、当時を回想するうっとりとした夢の消息のうちに、燦然《さんぜん》たる警戒の閃《ひら》めきを認めなければならなかった。
彼はすぐ清子の手から眼を放して、その髪を見
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