行掛《ゆきがか》り上《じょう》から考えても、またそれらの纏綿《てんめん》した情実を傍《かたわら》に置いた、自然不自然の批判から云っても、実は一思案《ひとしあん》しなければならない点であった。それを平生の細心にも似ず、一顧の掛念《けねん》さえなく、ただ無雑作《むぞうさ》に話頭《わとう》に上せた津田は、まさに居常《きょじょう》お延に対する時の用意を取り忘れていたに違《ちがい》なかった。
 しかし相手はすでにお延でなかった。津田がその用心を忘れても差支えなかったという証拠は、すぐ清子の挨拶《あいさつ》ぶりで知れた。彼女は微笑して答えた。
「ええありがとう。まあ相変らずです。時々二人してあなたのお噂《うわさ》を致しております」
「ああそうですか。僕も始終《しじゅう》忙がしいもんですから、方々へ失礼ばかりして……」
「良人《うち》も同《おん》なじよ、あなた。近頃じゃ閑暇《ひま》な人は、まるで生きていられないのと同なじ事ね。だから自然御互いに遠々しくなるんですわ。だけどそれは仕方がないわ、自然の成行だから」
「そうですね」
 こう答えた津田は、「そうですね」という代りに「そうですか」と訊《き》いて
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