。この単純な所作が双方の間に行われるあいだ、津田は依然として立っていなければならなかった。しかし普通の場合に起る手持無沙汰《てもちぶさた》の感じの代りに、かえって一種の気楽さを味わった彼には何の苦痛も来《こ》ずにすんだ。彼はただ間《ま》の延びた挙動の引続きとして、平生の清子と矛盾しない意味からそれを眺めた。だから昨夜《ゆうべ》の記憶からくる不審も一倍に強かった。この逼《せま》らない人が、どうしてあんなに蒼《あお》くなったのだろう。どうしてああ硬く見えたのだろう。あの驚ろき具合とこの落ちつき方、それだけはどう考えても調和しなかった。彼は夜と昼の区別に生れて初めて気がついた人のような心持がした。
 彼は招ぜられない先に、まず自分から設けの席に着いた。そうして立ちながら果物《くだもの》を皿に盛るべく命じている清子を見守った。
「どうもお土産《みやげ》をありがとう」
 これが始めて彼女の口を洩《も》れた挨拶《あいさつ》であった。話頭《わとう》はそのお土産を持って来た人から、その土産をくれた人の好意に及ばなければならなかった。もとより嘘《うそ》を吐《つ》く覚悟で吉川夫人の名前を利用したその時の津
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