て見たりした。やっとの事で、下女の足音が廊下の曲り角に聴《きこ》えた時に、わざと取り繕《つくろ》った余裕を外側へ示したくなるほど、彼の心はそわそわしていた。
「どうしたね」
「お待遠さま。大変遅かったでしょう」
「なにそうでもないよ」
「少しお手伝いをしていたもんですから」
「何の?」
「お部屋を片づけてね、それから奥さんの御髪《おぐし》を結《い》って上げたんですよ。それにしちゃ早いでしょう」
津田は女の髷《まげ》がそんなに雑作《ぞうさ》なく結《ゆ》える訳のものでないと思った。
「銀杏返《いちょうがえ》しかい、丸髷《まるまげ》かい」
下女は取り合わずにただ笑い出した。
「まあ行って御覧なさい」
「行って御覧なさいって、行っても好いのかい。その返事を先刻《さっき》からこうして待ってるんじゃないか」
「おやどうもすみません、肝心《かんじん》のお返事を忘れてしまって。――どうぞおいで下さいましって」
やっと安心した津田は、立上りながらわざと冗談半分《じょうだんはんぶん》に駄目《だめ》を押した。
「本当かい。迷惑じゃないかね。向《むこう》へ行ってから気の毒な思いをさせられるのは厭《いや》
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