のぼ》られるように、作ってあるので、ついそこに見えている彼らの姿もなかなか庭先まで出るのに暇がかかった。それでも手代《てだい》はじっとして彼らを待っていなかった。たちまち津田を放《ほう》り出した現金な彼は、すぐ岡の裾《すそ》まで駈け出して行って、下から彼らを迎いに来たような挨拶《あいさつ》を与えた。
津田はこの時始めて二人の顔をよく見た。女は昨夕《ゆうべ》艶《なま》めかしい姿をして、彼の浴室の戸を開けた人に違《ちがい》なかった。風呂場で彼を驚ろかした大きな髷《まげ》をいつの間にか崩《くず》して、尋常の束髪に結《ゆ》い更《か》えたので、彼はつい同じ人と気がつかずにいた。彼はさらに声を聴《き》いただけで顔を知らなかった伴《つれ》の男の方を、よそながらの初対面といった風に、女と眺め比べた。短かく刈り込んだ当世風の髭《ひげ》を鼻の下に生やしたその男は、なるほど風呂番の云った通り、どこかに商人らしい面影《おもかげ》を宿していた。津田は彼の顔を見るや否や、すぐお秀の夫を憶い出した。堀庄太郎、もう少し略して堀の庄さん、もっと詰《つ》めて当人のしばしば用いる堀庄《ほりしょう》という名前が、いかにも妹
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