中へ入っていた。彼は病院を出る時、新調の※[#「糸」+褞のつくり」、第3水準1−90−18]袍に対してお延に使ったお世辞《せじ》をたちまち思い出した。同時にお延の返事も記憶の舞台に呼び起された。
「どっちが好いか比べて御覧なさい」
※[#「糸」+褞のつくり」、第3水準1−90−18]袍ははたして宿の方が上等であった。銘仙と糸織の区別は彼の眼にも一目瞭然《いちもくりょうぜん》であった。※[#「糸」+褞のつくり」、第3水準1−90−18]袍《どてら》を見較《みくら》べると共に、細君を前に置いて、内々心の中《うち》で考えた当時の事が再び意識の域上《いきじょう》に現われた。
「お延と清子」
独《ひと》りこう云った彼はたちまち吸殻を灰吹の中へ打ち込んで、その底から出るじいという音を聴《き》いたなり、すぐ夜具を頭から被《かぶ》った。
強《し》いて寝ようとする決心と努力は、その決心と努力が疲れ果ててどこかへ行ってしまった時に始めて酬《むく》いられた。彼はとうとう我知らず夢の中に落ち込んだ。
百七十八
朝早く男が来て雨戸を引く音のために、いったん破りかけられたその夢は、半醒
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